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水戸地方裁判所 昭和40年(ワ)301号 判決 1968年11月25日

原告

加藤哲男

被告

新堀静一

主文

被告は原告に対し金一八万九、八五三円とこれに対する昭和四一年一月一〇日より完済まで年五分の割合の金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は五分して、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決の第一項は、原告において被告に対し金四万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金二六万円とこれに対する昭和四一年一月一〇日より完済まで年五分の割合の金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、

その請求の原因として

(一)  原告は昭和三九年六月六日正午頃六三年型トヨペツト普通自動車(茨四な―三二六一)―以下本件自動車と称する―を運転して東茨城郡美野里町中野谷地内の国道六号線を水戸市方面から土浦市方面に向けて進行していたところ、折柄対向して来た被告の運転するスバル軽四輪自動車(八茨あ二四―九四)が本件自動車と約一〇メートルの距離に接近したときセンターラインを越えて無謀にも毎時約六〇キロメートルの高速度で進行し本件自動車に正面衝突したゝめ同車は大破した。

(二)  右事故は被告の過失によるものであるから、被告は原告の蒙つた次の損害(合計金二六万円)につき賠償の責任がある。

(1)  自動車の破損による損害(金二一万円)

本件自動車は原告が昭和三八年五月八日に訴外茨城トヨペツト株式会社より所有権を留保し、代金五五万二、三二〇円を同年同月一五日を第一回とし昭和四〇年四月まで毎月分割払いすることゝし、支払を了したときに所有権の移転を受ける約で買受けたものである。

右事故当時本件自動車の交換価格は金二二万円であつたが、事故による破損のためいわゆるポンコツ車として金一万円で売却することを余儀なくされたので、原告としては停止条件付権利の喪失によりその権利の価格に相当する金二一万円(事故当時の交換価格二二万円と現実の処分価格一万円との差額)の損害を蒙つた。

もし本件事故の被害者が原告でなくして、事故当時の自動車の所有者である訴外茨城トヨペツト株式会社であるとすれば、原告は売買契約上の債権者であるから、本訴において債権者代位権に基き同訴外会社が被告に対して有する右と同額の損害賠償債権を代位行使する。

したがつて被告はいずれにしても本件自動車の破損により金二一万円の損害賠償義務を免れない。

(2)  代替車使用料(金五万円)

原告はバーナーおよびボイラー等工事施行業を営なむものであるが、本件自動車が使用不能となつたゝめ事故後一ケ月半にわたり訴外立原陸之介より代替車を借入れ、同訴外人に対し使用料として金五万円を支払つたので、同額の損害を蒙つた。

(三)  よつて原告は被告に対し損害賠償として金二六万円とこれに対する訴状送達の翌日の昭和四一年一月一〇日より完済まで民事所定利率年五分の割合の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ

と述べた。

〔証拠関係略〕

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告主張事実(一)は知らない。その主張日時に発生した自動車事故のため被告は受傷して記憶喪失に陥つた。(二)は否認する。本件自動車の所有者は訴外茨城トヨペツト株式会社であるから、同会社が事故の被害者である。原告主張の売買契約は既に完結し、その効力は消滅しているから、債権者代位権の生ずる余地もない

と述べた。

〔証拠関係略〕

理由

(一)  〔証拠略〕を綜合すると、原告は昭和三九年六月六日正午過ぎ頃、本件自動車を運転して東茨城郡美野里町大字中野谷四一五番地先国道六号線を水戸市方面から土浦市方面に向け進行していたところ、被告がスバル軽四輪自動車を運転して毎時約五〇キロメートルの速度で対向し来たり、たがいの距離が十数メートルとなつたとき、突然被告が道路中央線を越え、斜め右前方の本件自動車の方向へ進んだため、自車前部を本件自動車の右前部と衝突させ、よつて同車を破損させるに至つたことが認められ、反対の証拠はない。

右事実によれば被告の運転上の過失によつて事故を惹起したことが明らかであるから、被告は事故により原告の蒙つた損害につき賠償の責に任じなければならない。

(二)  そこで原告主張の損害につき判断する。

(イ)  自動車の破損による損害について

〔証拠略〕によれば、本件自動車は原告が昭和三八年五月八日に訴外茨城トヨペツト株式会社より、代金総額五五万二、三二〇円(車両代金四八万八、〇〇〇円のほかに月賦金利、保険料等を含む)を同月以降昭和四〇年四月まで二四回にわたり毎月割賦払いすることゝし、代金完済まで自動車の所有権は同訴外会社に留保する約でこれを買受け、本件事故当時なお金二〇万四、〇〇〇円の割賦金の未払分があつたことが認められ、反対の証拠はない。

ところで右のような所有権留保の割賦販売契約において割賦払の期間中に目的物件が第三者により破損もしくは滅失せしめられた場合に、いつたい契約当事者のいずれの側が損害賠償請求権を取得するかゞ問題となるが、一般に本件のごとき自動車の割賦販売契約において所有権が売主に留保されるのはもつぱら代金債権の確保のためであつて、当事者の内部関係においては買主が実質上の所有者であると解すべきが通例であるのみならず、前記甲第六号証(自動車月賦販売契約書)によると、本件売買契約において自動車の破損ないし滅失の場合に買主は割賦弁済の利益を失い、売主に対したゞちに割賦残代金を支払うべき義務を生ずる旨の特約が設けられていること、すなわち破損ないし滅失の危険を負担すべき当事者は買主と定められており、売主において事故による実害を蒙むることのないよう配慮されていることから考えると、買主である原告が本件事故の実質上の被害者として損害賠償請求権を取得したものと認めるのが相当である。

なお原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故の後、訴外茨城トヨペツト株式会社より本件自動車の割賦残代金二〇万四、〇〇〇円の支払の請求を受け、同訴外会社との間で示談交渉した結果、修理代金債務をも含め金八万円を支払うことで解決を見たことが認められるが、この事実は本件事故に基く損害賠償請求権の帰属およびその範囲に格別の影響を与えないものと考うべきである。

そこで損害額を検討するのに、原告は、本件自動車の事故直前の交換価格は金二二万円であつたが、事故による破損のためいわゆるポンコツ車として金一万円で売却することを余儀なくされたので、原告の損害額はその差額に相当する金二一万円であると主張する。そしてなるほど証人岡崎登の証言によつて真正に成立したと推認される甲第五号証(車両価格推定書)には、本件自動車の購入後一年一ケ月使用した状態での価格は金二二万円と推定される旨の記載があるし、他方〔証拠略〕によれば、本件自動車は本件事故後に訴外茨城トヨペツト株式会社が解体処分する場合の評価額の金一万円でこれを引取つたことが認められる。

しかしながら本件自動車の破損が修復不能であつたならばともかく、かえつて〔証拠略〕によれば、本件自動車の破損は金一六万四、八五三円の修理費用で修復が可能であつたことが認められるから、修復不能のいわゆるポンコツ車として処分した場合を前提とする原告の前記主張は採用しがたく、むしろ右修理費見積額をもつて原告の損害額と認むべきである。

したがつて本件自動車の破損の損害に関する原告の主張は損害額一六万四、八五三円の限度において理由があるものというべきである。

(ロ)  代替車借用による損害

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故当時、燃焼器具の外交販売を営み、その営業上自動車の使用が必要不可欠であつたゝめ、本件事故後約一ケ月半の期間、訴外立原陸之介より代替車として五〇〇キログラム積コニー軽四輪自動車一台を借用したこと、そして当時原告は右訴外人より約三坪の事務所も借りていたが、両方の使用料として内訳を定めず一括して一ケ月金五万円の割合の金員を支払つたこと、以上の事実を認めることができる。

本件自動車の前記修理価格に鑑みると、原告において本件事故後一ケ月間程度代替車を使用することは必要やむを得ないものであつたと認むべきであるから、代替車使用料一ケ月分が損害にあたるものというべきであるが、本件において原告が支出した一ケ月分使用料の五万円には前記事務所の賃料が含まれていて、その内訳を明らかにすることができない以上、原告の損害額はその二分の一に当る金二万五、〇〇〇円と認めるのが相当である。

したがつて代替車使用の損害についての原告の主張は損害額二万五、〇〇〇円の限度において理由がある。

(三)  よつて被告は原告に対し本件事故に基く損害賠償として前記(イ)の金一六万四、八五三円、(ロ)の金二万五、〇〇〇円の合計金一八万九、八五三円の支払義務を負うものといわなければならないから、原告の請求は右金員とこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四一年一月一〇日より完済まで民事所定利率年五分の割合の遅延損害金の支払を求める範囲において認容し、その余を棄却することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、原告勝訴部分の仮執行宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 土屋連秀)

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